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欧の細道 <偶然?お導き?>

 ドイツでのお話を。

 近年、ラッキーにも、何度かスウェーデン他に行く機会に恵まれましたが、この仕事もひと段落で、もう今後は行く機会がないかもしれません。そんな事情から、今回はちょっと自分の中でまとめの旅?というかしみじみとした思いで、ストックホルムの、”まだ歩いていなかったところ”…を歩いてまわりました。

 今回、ドイツに寄ったのは、フライベルグに1年だけ滞在予定の知人から声がかかったのと、”フライベルグ”について調べているうちに、いくつかの心惹かれる情報にであい、もうそう行く機会もないだろうから…と思いきってでかけたわけです。

 フライベルグへの行き方や宿のことを調べているときに、少し離れたところに、”ライプチヒ”があることに気が付きました。…ライプチヒといえば、トーマス教会! バッハ好きの自分にとっては、”わぉ…☆”というところです。しかも調べていくうちに、ドイツの鉄道網はとても素晴らしく、ドレスデンを拠点とすれば、そこからフライベルグにも、ライプチヒにも(ほかにもマイセンにも、ベルリンにも、プラハ他にも…)ぴゅんと行けてしまうことに気が付きました。

 

 子どものころから、バッハの伝記を繰り返し読んでいて、でも遠い遠い世界のことと思っていた場所にもしかして行けるかも?… と気が付いたときに、こんなチャンスが自分のシンプルな人生にめぐってくるなんて…と、何度もほほをつねりました。 

 また、旅の計画を進めているうちに、今度はフライベルグについても、ものすごく興味深いところであることがわかってきました。フライベルグは、ザクセン文化の心臓といわれた、豊富な鉱山資源を送り出してきた鉱山の街で、そこには、ベルクアカデミーという有名な教育・研究機関もあります。そこは、日本の近代産業の黎明期に主だった鉱山・金属学者が留学し、学んだところでした。その日本人のリストを見ていますと、”えーっ? このかたも??”というかたなどもおられて。俄然そこにも興味がでてまいりました。

 さらに、ライプチヒのことを調べていますと、そこには、ゲーテや森鴎外がよく通ったというレストランなどもあり、そこは、ゲーテの名作”ファウスト”にもでてくるところで…。… 私はファウストは、少年少女向きに書き下ろされたものしかしっかり読んでいないのですが、それでもそのころ、この作品にはすごくひかれ、特に大悪魔メフィストのキャラは忘れられない強い存在でした。

 バッハにメフィストに金属学者さんたち… となると、これはもうあまりに魅力的♪です。

 ちゃんとドイツまで行けるかなとか、ドイツで列車の切符を現地でちゃんと買えるかなとかあれこれと”はじめてのおつかい”のように不安ではあったのですが、でかけました。夏にでかけたときに、前泊の成田で肋骨を折ってしまった苦い体験がありますので、今回は、深夜1時半に羽田空港を出発する便ででかけました。…これで”前泊での骨折”の不安解消♪… ということで。

 

 

 … と、前置きが長くなりましたが、何が書きたかったのかと申しますと、”人生の中で、こんなことって(まさかバッハやメフィスト?のところに自分が行ける機会があるとは…)あるのだ…”と、しみじみとおこりうることの”偶然”?に感じいりました…ということで。

 ところが、その”偶然”はまだまだ続きました。

 

 ライプチヒへは、ドレスデンから特急で1時間少々の旅。切符もちゃんと買えました。

 そしてライプチヒ駅から歩いて十数分で、ちゃんとバッハが長くそこで働いたトーマス教会にたどりつきました。ガイドブックで見知っていた外観を遠目から初めて見たときは、もうそれだけで胸がいっぱいになりました。教会に駆け込みたかったのですが、まずは、じっくり深呼吸。しばし教会を外から眺めてもう一度深呼吸して入りました。教会の中には、シーズンオフだからでしょうか、人の姿はまばらで、クリスマスの飾りつけの準備をされているらしい大工さん?が作業中だったりしました。

 教会正面の祭壇の前には、J.S.バッハのお墓がありました。

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 ここにあるとは読み知っていても、いざ目の前に…となると、感慨深く。

 

 教会の椅子に座って、しばし、BACHの空気の中で呼吸しました。(換気などされていなければいいのに…などと思いながら)

  その後、教会を出て、すぐ横にあるバッハのお土産ショップに少し立ち寄り、さらに近くのバッハ博物館に行こうとしてショップを出た時です。誰かが教会のドアをあけたときに、ふっとオルガンの音が聞こえてきた気がしたのです。 えっ???… と思い、教会にまた駆け込みました。すると、教会いっぱいに、パイプオルガンの音色が響きわたっているのです。…え???

 … 実は、スウェーデン、ドイツともに教会でのコンサートの時間などを旅の前にチェックしていたのですが、どうしても時間があわず、”音を聴く”ことはあきらめていたのです。

 でも、なんと、この教会のオルガン奏者さんが”練習”をはじめられたのです!

  こんなことってあるのだなぁ… と、びっくりし、約30分ほどだったでしょうか。その”練習”を終えられるまで、ほんの数人の聴衆しかいない贅沢なコンサートを味わいました。練習?とはいえ、非常に素晴らしい演奏でした。目の前では、何事もないようにクリスマスの飾りつけを組み立てられている光景もある中で、バッハを描いたステンドグラスから入るあたたかな光を感じながらの夢のような時間でした。 偶然といえばあまりにあまりの、まさに何かのお導き… のような、思いがけない時間をいただき、本当に胸がいっぱいになりました。

 

 練習が終わったあと、思わず拍手をしてしまい、(あっ… でも…)と、2,3回で手をとめました。でもオルガンのところから、見下ろされたオルガニストのかたと、なんとなく目があったような気がいたしました。 プロフェッサーという称号つきで教会のパンフレットに書かれておいでのかたで、なるほど、バッハも当時まさに…と、そのかたのお顔とバッハが重なりました。一瞬だけの拝顔でしたが、とても素敵なかたでした。

 ぼーっとなりながらも次にまわったバッハ博物館は、また直筆の楽譜はもとより、バッハ当時の音の再現ほか、いろいろと充実した内容で、心の中は、”わぁ!””きゃー””…!”…。

 

 その後、パサージュとよばれるショッピングセンター?を探しあて、ゲーテの”ファウスト”に出てくるレストランで、ランチもとりました。ここには、森鴎外氏を描いた絵も飾られていました。

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 そして、その翌日、実はもう一度、まさかの偶然にであえたのです…。翌日は、ドレスデンの街をまわったのですが、夕暮間近の最後に寄ったカテドラル(宮廷教会)で、祭壇ほかを見て回っていたときに、まさかの頭上から降り注ぐパイプオルガンの音…。その音色は荘厳でした。… なんとまたまたオルガニストのかたの練習にいきあったのです。 教会の中には私を含めて3人しかいませんでした。パイプオルガンの上部にある窓からは、もう暮れかかった深い空の青が見えます。パイプオルガンの音は教会全体を包み込み、聴いているだけで、自分の心からすべてが流れ出すようでした。教会が閉まる時間までの約30分。おもいがけないコンサートを、堪能することができました。

 

 教会でのコンサートの時間と違って、”いつ練習をします”なんて、どこにも書かれていない情報です。そんな時間に2度もめぐりあえたこと。そしてその音楽が本当に素晴らしいものであったこと。またほっぺたをつねりつづけました。

 思いがけないことからはじまった旅の中で、さまざまな偶然が重なり、こんな時間をも過ごせたことで、自分の中にいろいろと渦巻くこともあった、日々の中での不平や不満などを流しきってしまう気持ちになりました。

 全部 YES!… そう思えました。

 

 … ドレスデンでは、歴史的緑の丸天井と呼ばれる宮殿の宝物館(戦災でかなりの被害にあったのをようやく再建、公開されているもの)や、アルテマイスターといわれる素晴らしい美術館でのひととき、この地の名物のたまごケーキ?のおいしかったこと!…など、いろいろな素敵な時間もありました。

 唯一、ふーみゅだったのは、クリスマスマーケットの準備の真っ最中で、あちこちをその準備の車が走り回り、また、広場なども”準備中の工事現場”の状態…ばかりを4泊5日…みたあげくに、とうとう、そのマーケットが開く直前に日本への帰国の途につかなければいけなかったこと…。一番最初に開けていたお店でひとつだけ記念に買い物をしましたが、飲んでみたかったクリスマスの飲み物?…などもとうとう飲めないままで。

 

 でも、十分にほかの幸運に恵まれたのですから、これ以上の贅沢はとても言えません。 偶然なのか、お導きなのか… 。宝くじに連続2回当たってしまった気分?といいますか…なんだか一生分の幸運を全部もらってしまった気持ちで怖いほどです。

 

 第一、数年前には、異国の街をこんなふうにひとりでうろうろしてまわるなど想像もしていませんでした。まさかバッハのお墓の前でバッハを聴くことが自分の人生にあるなんて、その瞬間まで思いもしませんでした。本当に恵まれたと思います。この何年かにお世話になったいろいろなかたのおかげです。

 さて、これからは…。

 まだ想像もつきませんが、すごくよい区切りの旅とその時間の記憶をエネルギーにして、また手探りで、あちこち道に迷いながらも歩いていこうと思います。

  今回の旅の中で、もうひとつ、痛切に思ったことがあります。それは、フライベルグで、世界有数といわれる結晶のコレクションを、大学付属の博物館で見たときのことです。(宮殿を利用して一般公開されています。とても素晴らしいコレクションです。機会があればぜひ…)

 

 ”美しい!!”…と思いました。なぜに自然はこんなに美しいものを作り出すのか。そして、それを手にしたときの人々の感動の歴史が、ひとつひとつの結晶からほとばしるようでした。 この結晶たちに、たとえば大学生のころにめぐりあえていたら、自分の人生の方向性が変わっていたかもしれないと思いました。なにげなく、(1,1,1)というように学び、覚えていた結晶構造などに、もっともっと興味を持ち、もっと知りたいと思っていたのではないかと。

  でも、その時にめぐりあえなかったのもやはり運命?なのでしょう。また、その頃にめぐりあっても今ほどの感動や興味はわかなかったかもしれません。

 

 神はサイコロをふらない…と言われますが、人生には、サイコロの目をみたように思える瞬間があるのではないかとおもいました。

 すっかり長くなりました。ドイツのそのほかのこぼれ話ほかまた、何かの機会に、ひょろろんと書かせていただくと思いますが、これで旅のお話はおわりにします。そうそう、あと機内でみた何本かの映画のお話は、また別途に。

 ということで、長いお話、おつきあいくださりありがとうございました。

 

 …さて、”ファウスト”、ちゃんと大人版?を読んでみなければ♪

 

 

 

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