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【読書】バッハ=魂のエヴァンゲリスト

 子どものころからバッハが好きでした。 いろいろな音楽が好きですが、それでも、もしも無人島にひとつだけ、好きなCDをもっていっていいよと言われたら、迷わずにバッハのCDを持っていきます(どの曲を持っていくかは悩みどころですが…)。

 特に自分が、心の疲れを感じたときや、考え事をしたいときに戻る原点?というのが、私の場合はバッハです。

 何故好きなのかと問われても、”神様がバッハの手を借りて地上に聴かされたとしか思えないほどに、人の手ではありえないような音の重なりがあるから”とか、”とてもロジカルに感じるから”とか…しか言えなくて、うまく語れなかったのですが、その”自分がバッハが好きの理由”が見事に示されている本に出会いました。

 「バッハ=魂のエヴァンゲリスト」 磯山雅氏著です。

 バッハの伝記の大人版(少年少女向けの伝記を、大昔、よく読んでいましたが、大人になってから伝記というのを読むこと自体、バッハに限らずなくなった気がします。)を探していて、この本に巡り合いましたが、自分自身の”好き!”の理由を、この本の冒頭の”はじめに”のところから、言葉で表現されていて、びっくりしました。

 自分の心の中で整理されていなかった想いを、こんなにもみごとにほかのかたの言葉で整理できるなんて…と。

 そして、その想いは、本文を読み進めていくうえで、より鮮明になっていきました。

 帯に書いてある言葉をそのまま書かせていただきます。(これが”はじめに”に書かれていた言葉です)

 ”人間の小ささ、人生のむなしさをバッハはわれわれ以上によく知っているが、だからといってバッハは人間に絶望するのではなく、現実を超えてより良いものをめざそうとする人間の可能性への信頼を、音楽に盛り込んだ。その意味で、バッハの音楽は、切実であると同時にきわめて楽天的でもある。バッハの音楽を聴くとき、われわれは、人間の中にもそうした可能性があることを教えられて、幸せになるのである。”

 

 … バッハの音楽にあるのは、”肯定”と、人間性への信頼。きわめてポジティブに前を向き続ける力。 

 だから… だから… 救われてきたのだと、自分の”バッハが好き!”の理由が明確になり、そしてより、心酔できるようになりました。

 バッハの曲のすべてを知っているわけではなく、むしろとても限定的であるため、この本で書かれている多くの曲の解説では、なじみのないところなどもいろいろありましたが、そんなページはぴゅんぴゅん飛ばして、なお、バッハの生涯を知る中で、バッハの音楽に納得することができました。また、バッハの人物像を知るにつれて、なぜあんな曲が作曲できたのかもわかってきました。

 バッハが好きなかたにはおすすめです。また、この少しだけでもバッハを聴かれて心惹かれたかたが、この本を手にされると、もう少しほかの曲も…と思われるのではないかと思います。

 小さいころ、昼間私の子守?は、小さなプレーヤーでした。

 箱のふたをあけてレコードをおいて、自分で針を動かしてスタートしたいところにおくと音が流れはじめるというもので、そのプレーヤーで聴いていたのが、バッハの生涯を、彼の音楽をバックに語るナレーションもののレコードでした。それには、ナレーションと同じことが書かれている説明書きがついていました。

 親がバッハ好きだったわけではなくて、いまだになぜそのレコードがあったのかわからないのですが、毎日毎日、ずーっとそればかり一人で聴いて、その説明書を眺めているうちに、少しずつそのお話を覚え、曲にもなじんでいきました。

 4歳や5歳のころに、人生云々と考えていたわけでもないでしょう。好き! の理由を考える年でもなかったでしょう。でも、そんな子どもの心にも、バッハの曲は響き、そして、この年になって、ようやく、その理由?にたどりつきました。

 ”好き”に理由はいらないのかもしれませんが、それでも”好き”の理由が自分でわかると、妙に心のすわりがよくなる気がします。

 ずーっと昔、学生のころ、ある人から、”あなたは、恋をして、人を好きになったときでも、なぜその人を好きになってしまったかの理由を明確にしたがるタイプでしょう”と言われた言葉が、この本を読んでいるときに突然思い出されました。本を読みながら、バッハが好きな理由がわかっていくことがとても嬉しいと感じている今の自分とつながり、苦笑いしてしまいました。

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