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【読書】プラハの春

 久々にラブストーリーを堪能しました。・・・本当は、”ラブストーリー”とだけ書いてはいけない本なのでしょうけれど。 ”プラハの春”・・・春江一也氏著(集英社文庫) です。

 知人に薦められて、”そういえば、最近新書や指南書のようなものしか読んでいなかった”…と、小説への渇望感から、自分の中でのささやかな“夏休み”を求めて、この本を手にしてみました。

 お話は、チェコスロバキア大使館勤務の若い日本人外交官堀江が、ひょんなことから、東ドイツ出身の美しい女性とその娘を助け、その女性カテリーナに惹かれていきます。自分自身は反体制分子とみられていながら、東ドイツの高官を夫にもつカテリーナは複雑な立場で、またチェコは、“プラハの春”といわれる歴史のページをむかえ、それぞれの人がそれぞれの立場で、懸命にその時代を生きていきます。

 この本は、その歴史を語る意義と、ラブストーリーを通して人を語る部分が、みごとに縦糸と横糸のように織り込まれて、その流れの中にいつのまにか自分自身も織り込まれて、いっきに読了に向かいます。

 作者については、まったく予備知識なく読み始め、上巻から下巻にうつるときにはたと気がつきました。この作者、春江氏自身が外交官で、チェコ駐在体験を持たれているかただと。きっと多分まさに・・・その時に・・・なのでしょう。だからこそ、外交問題の詳細が描かれていて、また、その場にいたからこそ、当時そこにいる人々がどうであったのかの“人間”もまた書きこまれているのでしょう。さらには、こんなことを書くと失礼かもしれませんが、モノを書くこと・・・いわゆる作家であること・・・を本業とされていないがために、かえって素直な読みやすい文章で、等身大の登場人物を描かれたのでしょう。最後のほうで、唐突にカテリーナにふってくる災いについては、他の外交的な部分などがとても緻密に書かれていただけに唐突さはいなめず、ツメとしてかなり残念でしたが、それも、真の意味ので“小説家”ではないということで、納得できました。また、なりきった“小説家”でないがゆえに、心に届くものが大きいのかもしれません。

 政治的・歴史的な部分については、この本を読むまでほとんど知識がなかったので、この本でも、その壮大で、さまざまな時代、地域で大なり小なり同様に繰り返されていくストーリーに哀しみ、やるせなさを覚えてしまった・・・としか書けないのですが、それ以外の人間ドラマの部分だけでも、十分に惹きこまれました。あえてこの感想では、人間ドラマに絞って書くといたしますと、ひたすらに善き人堀江さんと、まさにマドンナのカテリーナ。できすぎのようなカップルですが、人の心の善をそのまま疑うことなく、この二人のラブストーリーに浸っていける感覚は、この暑い暑い暑すぎる夏においてさえも、清涼剤になりました。

 女性の美しさとは何なのか…。何度も何度もさまざまな登場人物の言葉で、美しさが語られるカテリーナですが、単に造形的な美ではない、強さからの美の意味がよく描かれていたと思います。そしてまた、その強さが何からおこるものなのか、何が得られるとさらに美しく、強くなるのか。美しい強さを得ること、そしてそれをキープするためには何が必要なのか。・・・そういうことが、とても明確に描かれていたと思います。

 理想的・・・ 過ぎるのかもしれないラブストーリーの世界ですが、現実のドロドロし過ぎの世界の中で純粋な理想がつぶされていく哀しみの中で、せめて人と人との中に、信じあえるものを・・・と描かれたかったのかもと、作者の心情をお察しできるような気になり、また自分自身もその善と愛の世界にしばしどっぷる夢見心地でひたりました。

 このストーリーには続編が想定されている・・・ に違いないことは、この本の最後のほうを読んでいくと、よくわかります。あきらかにはられているとしか思えないいろいろな伏線から、このお話続く“ベルリンの秋”なるお話を勝手に想像してしまっております。(歴史部分というよりも登場人物のその後的なところで)

 あまりに歴史的にも濃厚な世界を読み終えたばかりですので、少し秋が深まってから、深呼吸をしてまた手にしてみたくもあります。この作者の外交官としての目で描かれる歴史の舞台をもっともっと知ってみたくなっています。

 ”・・・支えてやってくださいね。恋しい人に愛される女は強いのよ。”(この本の中の一節です) 

 自ら輝く強い女性の強さを支え切れる男性の愛が、いつも大輪の花のそばで白く輝いていました。女性の強さを認め、愛し、さらに洗練された強さに導き、支えてくれる。そんな男性に巡り合えた女性は本当に幸せものなのでしょう。

 その他、いくつかの、ちりばめられた言葉にはっとする一冊でした。 この作家のかたも、もしや、いえ、きっと…と思わずにいられませんでした。

 

 

 

  

 

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