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【読書】スケーターワルツ

 ”この作家の本を古本屋さんの特価コーナーで見かけたら、本のページをめくることなく買う…” そんなふうに“作家名”で買う作家のかたが、何人か自分の心の中でリストアップされるのですが、そのうちの一人、加賀乙彦さんの「スケーターワルツ」を読みました。

 この本は、半年以上前に、そんなふうにして購入してそのまま書棚に入れていた本です。物語の主人公の大学生美也子は、女子フィギュアスケートの選手。子供のころから厳しいトレーニングを重ねてきました。3回転ジャンプをきめるために、相当の減量をコーチから言い渡されます。いろいろと食事制限をするのですがなかなか成果はでません。とうとう、彼女は思い切った減量法に取り組み、体重はいっきに落ちていくのですが、とうとうそれが行き過ぎて、アノレキシア・ネルヴォーザ… 神経性食思不振症… にいきついてしまいます。

 その彼女の心の葛藤と、その彼女をとりまく人々、特にスマートな、スケートクラブの先輩有田と、彼女に思いを寄せる世界放浪の経歴などを持つ、本の虫の巨漢、長坂という二人の男性とのかかわりが描かれ、物語は非常に読みやすい文体で進んでいきます。

 一度読み始めると、いっきに最後まで読んでしまう本で、ある書評では“(加賀さんの本にしては)軽い”といった声もありましたが、さすがに精神科のドクターだけあって、心のひだのようなものはよく描かれているため、人物造形が明確で、よかったと思います。

 食、とりわけ減量に向き合う人の心のメカニズム?などが、専門的な?内容をわかりやすい言葉で書かれていて、また具体的な食事内容もふんだんに登場し、私は、思わず、ダイエット指南書?のようにも読んでしまいました(とほ)。

 その一方で、久々に本の中の登場人物で、本好きで、自然体であたたかなキャラに出会えて、そんな意味でもその世界に入り込んで読み終えました。 

 “欲望のおもむくままに”…というのもこの本のキーワードです。この言葉だけだと誤解を生じてしまうかもしれませんが、“自然体で生きること”はまたある意味で“古風”に生きることかも…と、ある登場人物の生き方からいろいろと思いがひろがりました。

 スケートにたとえるならば、きっちりした規定演技をのびやかに美しくこなす欲望?なのかもしれません。(←意味不明な表現ですが)

  この本の中で、とても興味深かったのは、読書大好き人間が、蔵書とどうむきあうかというお話です。

 日々読書、読書、読書で過ごす登場人物が、「この世で本当に自分にとって面白いと確信の持てる本なんてほんのわずかですから。5000冊読んだすえに、ぼくが繰り返し読むに値いすると選び出した本はたったの150冊でした」「人類史はじまって以来、世界中の読書人が、そういう自分のための150冊を選り分けてきて、古典というのが暗黙の諒解でできあがった。…」という言葉(そのほか、ぜひ蔵書のことで何か思っておられるかたにはこの本のこの個所を…とおすすめ言葉いっぱいです。あえてここでは書きません。)が、ちょうど本の整理中の自分にずしんときました。

  5000冊は、読んでいないにしても、それでも部屋にあふれる本の中での自分にとっても150冊。棚一つ分。それを今、心の中で選びつつあります。自分の中でその中のさらに10冊にも入るのが、加賀乙彦さんの「宣告(上・下)」です。これは死刑囚をテーマにした重いお話ですが、こういう重い本にせよ、「頭医者青春記」やこの「スケーターワルツ」といったどちらかというといっきに読めてしまう本にしても、この著者の根底にある、人を見つめる視点が好きで、この作家の本は無条件にとりあえず手にしてしまうのだろうと自分で思いました。

 以前は、近くのアイスリンクにプロのフィギュアチームによるアイスショーなどを見にでかけたりしていました。リンクサイドの席ではかなり冷えるのですが、その冷えも思い出しつつ、その一方で、インターバルのときに買い求めた中華がゆの素朴なあたたかさ?を思い出した本でした。

 

 

 ”いとしのセルゲイ”という、フィギュアでペアを組んだ男性と結婚して家庭をもち、その彼が若くして急逝した女子フィギュア選手のエカテリーナ・ゴルデーワさんの本もふっと思い出しました。こちらは、実話で、加賀さんの本とはまったくタイプが違う本ですが、フィギュア選手の日々の生活、想いを等身大?で描いている本で、スケーターワルツを読みながら、思い出してしまっておりました。…この本は、この二人のスケート選手の名前を見て、その美しい演技の記憶から、中も見ずにやはり中古書店のコーナーで買った本です。

  

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