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【読書】風花病棟

 ”この作家の新作は、ほぼ無条件で買いたい”… そういうふうに思うことができる作家とめぐりあえることはとても幸せなことだと思います。帚木蓬生氏は私にとって、数少ないそういう作家のひとりです。

 そういう作家の新刊を手にできるということはまた嬉しいことです。昨晩から手にしていっきに読みました。

 「風花病棟」帚木蓬生氏著 新潮社…は、「小説新潮」にこの10年間、一年に一作ずつ掲載されてきた短編を集めた作品集とのこと。 小説新潮はめったに手にとることがなかったので、どの作品も初めて読みました。

 どの作品も、”医”の立場で書かれたもので、あいかわらずの静かな筆致の中にも、医者もまた人である…という心の揺れを、過不足なく表現されていて、その想いのたけの等身大ぶりが心に届く本でした。決して派手さはないながら、帚木先生の本の中でも、好感度という意味では、私の中では5指に入る作品だと思います。

 ただ、この作品は、読者を選ぶ本かもしれないと思いました。医療関係者やその家族、親戚などならばもちろんOK。自分か家族に、それなりの病気をしてきた人がいるとか、要はこの世界のどこかを自分のこととして体験しているかどうか…が、この本の響き方に大きく影響してくるだろうなぁと思いました。もっともこれはどんな本でも同じことで、たとえば、先日書いた、源氏物語が時代を超えてなお多くの人の心に響き続けるかというと、それがそこに男女の愛に関わるさまざまな不偏のテーマがあるから・・・にほかならず。

 …私には、この本がとてもタイムリーであったということも、私にこの本が響いた理由でもあります。私自身、子どものころは病気がちだったのですが、ずっと診てくれていたお医者さんに診てもらうことができなくなってからは、今度は一転してお医者に極力かからない…で、きました。ところが、今年に入って、もうまさに老境に入られた開業医さんのところから、大病院にまでかかることになってしまいました。その間に自分が経験したこと、感じたことは、まさに、もしも自分に文才があれば、小説にしたい…と思うほどで。(文才がないので、とほほ…でありますが)

 また、その少し前には、親しい人が突然の大手術をしました。その時に遭遇したこともまた、何らかの形で書き残しておきたいような状況です(現在進行形)。さらに、つい先日はある知人から、高校生のお子さんが、進路について揺れている…親と同じ医学の道に進むとばかり思っていて、それに十分な成績もおさめてきているのに、まったく違う他の道を歩みたいと突然言い出して…というようなお話をぼそぼそっと喫茶店で数時間うかがったり。

 …こんな、直近で自分とその周囲で起こったことにたまたま多くがフィードバックしただけでなく、それら以外にも自分の中で封印していたようなこともこの本を読みながら次々にあふれでてきて、私には、なぜにこの時期に…と思わずにはいられないほどのタイミングでであった本でした。(たとえば他の帚木先生の本を読んでも、ここまでは自分に戻ってこないので)

 タイトルを今こちらに書きながら、それが“風化病棟”でないことに気がつきました。

 歳月を経ても風化しきれないことがいろいろとあります。それを自分には、この帚木先生のようには書き残す力がないことをとても情けなく思いながら、せめてそんな自分でも、この本を読んで、風化せずに残っているものを想いなおす機会を得られたことを幸いと感じました。

 

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